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21世紀のシビック |
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ちょっとコンパクトなボディサイズの、日本を代表するハッチバック・モデル――もしもあなたが『シビック』というネーミングの持ち主にそんなイメージを抱いているとしたら、初代モデルから数えて8代目となる最新モデルの概要を知った時、大きな衝撃を受けるに違いない。
ボディ全長は前述の初代モデルからすると実に1m(!)ほども長い4540mmという値。全幅も軽く20cm以上大きくなって、1750mm級という今や立派な“3ナンバー・サイズ”に踏み込んだデータを示す。エンジン排気量も当初の1.2Lという数字は「今は昔」で、標準仕様では1.8Lにまで膨らんだ。
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が、それよりも何よりもかつてのシビックに親しんだ人にとってショックなのは、最新モデルにはもはや「ハッチバック・ボディが存在しない」という事の方であろう。そう、最新シビックは4ドア・セダンのみという設定。「コンパクトなハッチバック・モデルは『フィット』にそのポジションを譲った」というのがホンダの見解。21世紀に入って初のフルモデルチェンジにして、“日本のシビック”はかつてない大胆な舵取りを試みたのである。
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デザインは大胆な“トライ” |
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もっとも、当のホンダにとってもこうした経緯に到るまでには少なからぬ迷いもあったようだ。何となれば、このモデルが『シビック』という名称に正式決定したのは、発売のわずかに4ヶ月前だったという。従来型までの流れからむしろ“ホンダ・フェリオ”とした方が相応しいといった意見もあったとの事。が、最終的にはやはり歴史ある名前を廃するまでの決断は出来なかったようだ。
そんな新時代のシビックは、スタイリングの面でも大胆なトライを行っている。“新しいセダン”をアピールするために用いた手法は、「モノフォルムの採用」だった。
なるほど、3BOXのセダンなのにAピラーは極端に前進。ドア前方にミニバン流儀の三角窓が与えられたそのプロポーションはかなりユニークだ。ただ、それは大いに“好き嫌い”が分かれそうなデザインとも思える。今の日本の市場はどんな反応を示すであろうか…。一方、インテリアもダッシュボード周りを中心に、それまでのセダンにはなかった新規性を主張。ただし、視覚系を上下段に分離させた試みは必ずしも成功しているとは思えない。特に、ステアリング上側のデジタル式スピードメーターとその下側のタコメーターを同時に読み取ろうとすると、高さも焦点距離も大きく異なるので見づらい事この上ない。せめてこの2つのメーターは同一ゾーンに配して欲しかった。
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すべてが新しい新型シビック |
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トランスミッションの基本設計こそ既存ユニットのそれを受け継いではいるものの、「ボディ骨格もエンジンもオールニュー」という新しいシビックの走りは、その動力性能もフットワークのテイストもなかなかに質感が高い。ここでも、「シビックは随分と上質なクルマになったなぁ」と驚く人は多そうだ。そう、やはり『シビック』という名前は、もはやホンダの上級セダンのひとつを示すものへと昇華されているのである。
「驚くほどの低燃費」が自慢という1.8Lの新エンジンが生み出す力感は、しかしそんな“倹約型”という性格がウソのようにごくごく自然なものだ。特に低回転トルクが太かったり高回転の伸びが素晴らしかったりといった際立つ個性は見当たらないものの、こうして“普通であるのに超低燃費”という点にエンジン技術の高さを得意とするホンダ・エンジンの特徴が生きていると受け取るべきだろう。路面の凹凸を「軽くいなす」という感触のフットワークも、強い個性は認められないものの上質なセダンとしては好印象といえる。
前述したようにAピラーが前出しされているのでキャビン空間は大きく感じられるものの、一方でそれが生み出す左右前方への死角が気になるという点は、“実用車”としては多少気になるところではあるのだが…。
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気合を入れて開発されたハイブリッド・モデル |
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ところで、新しいシビックの売り物のひとつはハイブリッド・モデルが従来型以上に「気合い」を入れて開発された事。エンジンとトランスミッション(CVT)との間にモーターを挿入する“1モーター方式”という基本構成は従来通りながら、モーター出力を高め、ホンダ得意のVTEC技術を進化させて全気筒燃焼休止モードを新採用してモーターのみによるEV走行モードを新たに実現させるなど、従来よりもモーターアシストの比率を全般に高め気味にしてドライバビリティと燃費を共にさらに向上させようと目論むのが、ニューモデルの特徴だ。
実際、良くも悪くも「モーターにアシストされている」という感覚が余りなかった従来型に比べると、プリウスほどに濃厚とは言えないものの「電気自動車テイスト」が増しているのが新型の走り味。エンジン回転数が1000rpmプラスという常用域でややエンジンこもり音が目立つのが惜しいが、それでも加速感はエンジン排気量が1.3Lという事を忘れさせてくれるほどに力強いし静粛性も優秀だ。
軽量コンパクトさが売り物という事もあり、フットワークのテイストは事実上「ガソリン・モデルと変わらない」と報告が可能。ただし、従来型には採用されていなかった回生と油圧の協調システムが導入されたブレーキのタッチには、速度が落ちてきて回生→油圧と作動システムが切り替わる時点で、初代プリウスでも目立った類の多少の違和感が生まれる事になってしまった。
ガソリン・モデルに比べるとまだ割高感は残るが、日本はもとよりガソリン価格が高どまりとなっているアメリカ市場でも大きな人気者となりそうなのがこちらのモデル。プリウスとのライバル関係は、従来型以上に強くなった。
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