ダッジ・チャージャーの名はアメリカでは60年代後半から70年代後半にかけての黄金期のスポーツモデルとして知られている。当時のアメリカはフォード・マスタングやシボレー・カマロなど2ドアのスポーツモデルの人気が高かった。そこにクライスラーはダッジ・チャージャーを投入したのだ。チャージャーの魅力は、かなりワルなスポーツモデルというイメージ。そのパワーユニットにはV8、7.2Lという強烈なものがあった。
ダッジのイメージはチャージャーのヒットで大人しいファミリーカーから、ワルなスポーティカーへと人気が移行したのだ。
そのチャージャーが06年モデルとして甦った。ベースになっているのはクライスラー300Cだが、スタイリングは別もの。300Cはギラギラしたフロントグリルとスクエアなボディで存在感がある。これに対し、チャージャーは光りものを極力抑え、目立たないようにしているのだが、他のセダンとは異なるオーラを放っている。それは“ワル”のオーラだ。アメリカの“不良”中年に人気があるというが、その通りだ。日本でいえば以前のアリストといったところか。
フロントマスクは中央にダッジのカオである十字のグリル。その上にはV8チューンドエンジン用のエアインテークが口を開けている。バンパー一体成形のエアロバンパー。
サイドに回りこむと、4ドアではあるがリアドア後半から一段ホップアップしたウェストラインとドアウィンドの処理が、一見クーペのように感じられる。そのままテールに回りこむ。ランプやスポイラーなどにメッキ部分は一切ない。リアも光り物を徹底的に抑えてある。
ボディサイズは全長5082mm、全幅1891mm、全高1466mm。これはクライスラー300Cよりもやや長く、低いプロポーションになる。ホイールベースは3048mmで、これは300Cと同じだ。ボディカラーは日本仕様ではブラック、レッドの2色のみの設定だ。
インテリアデザインはホワイト文字盤の4連式メーターやハンドルスポークとセンターパネルのシルバーメタリック調の組み合わせは、300Cと共通のアイデンティティ。しかし、センターパネルのレイアウトは300Cよりもダッジのミドルセダンであるアベンジャーに近いデザインだ。
メーターパネルのスピードメーターは280km/h、エンジン回転計は6250回転から8000までがレッドゾーン表示されている。エンジン回転計にはAT/MTモードでのギア数が表示されるパネルも内蔵されている。
ミッションは5速AT。Dレンジからシフトレバーを左に動かすとシフトダウン、右に動かすとシフトアップするマニュアルモード付。このシフトパターンはメルセデス・ベンツとも共通だ。
前置きが長くなったが、いよいよ試乗だ。Dレンジにシフトして、アクセルペダルを踏みこむ。2000回転をオーバーするあたりからドロドロッというV6エンジンに特有の低く、響きわたるエグゾースト音が耳に入ってくる。V8エンジンは6.1LのHEMI。425馬力。58.0kg-mの数値は、なぜかパワーが300C
SRT8よりも6馬力ほど低い。
しかし、走り出してしまえば、そんな数馬力の差よりも、ドライブフィーリングのほうが重要。トルクは2000回転から太い。しかもアクセルペダルの動きとエンジン回転のレスポンスと、エキゾースト音がリニアに一体となって、ドライバーやパッセンジャーに伝わってくるのだ。
この一体感のある加速フィールは300C SRT8よりも迫力がある。止まる性能も4輪ディスクブレーキはドイツ・ブレンボ社製の大径ディスクを用いており、ハードな使用にも十分に耐えてくれた。
もちろん実際の加速性能もDレンジで5秒台。SRTチューンのV8は5800回転までスムーズに上昇する。一方、100km/h巡航はDレンジ1700回転、4速でも2400回転にすぎない。
乗り心地がよいのもチャージャーSRT8の特徴。245/45ZR20タイヤを装着した仕様はとくに上下動のキツさもなく、町中での足としても快適。アメリカでの試乗ではフロント245/45ZR20、リア255/45ZR20という仕様にも乗ったがこちらはかなりかためだった。日常乗るなら前者がよいだろう。
そして、もっとも魅力的なのは車両価格。チャージャーSRT8は651万円。同じエンジンの300C SRT8は726.6万円。チャージャーはこのSRT8の1グレードというプレミアム性も、ユーザーには魅力に違いない。(石川真禧照) |