実際に走り出すと、BMW自らが“高精度ダイレクト・インジェクション・パラレルツインターボ・エンジン”と名乗るこの新しい心臓が、ターボエンジンならではのフルブースト時のパンチ力を発揮すると同時に、これまでのターボ・ユニットでは信じられないほどにフレキシブルな特性の持ち主である事にまずは驚かされる。
アクセルペダルを深く踏み込めば、前述のオーバー300psというカタログデータが素直に納得出来る、いかにもターボモデルらしい強烈な加速Gが発生。一方で、殆ど1000rpmプラスに過ぎないといったエンジン回転数の領域では、今度はうっかりすると「これは自然吸気エンジンか!?」と疑うばかりに自然で軽快なアクセルレスポンスを味わわせてくれる。
残念ながら、日本には導入予定がないという6速MTとのマッチングも文句ナシのものだった。こちらであれば、フィーリングに優れたシフト操作を駆使して、まさに「これではM3の立つ瀬がないのではないか」というほどにアップテンポなスポーツドライビングを心行くまで堪能する事が出来る。
一方、日本への導入が予定される6速AT仕様も、そこに新しいロジックが追加をされた事でこれまでのAT以上にアクティブな走りが可能。走りのシーンによっては多少のショックが認められる場合もあるものの、各ギア間のシフト動作はトルコンATらしからぬ素早さで完了。さらに、ステアリングホイール上に左右対称にレイアウトされたシフトパドルからの命令は例えDレンジ走行中でも受け付けられ、数秒の後に再びDレンジに復帰をするという新しいプログラムがとても扱いやすい。
少々オーバーに表現をすれば、「今までのガソリンターボエンジンでは出会った事のない」というそんな独特かつ魅力的なエンジンフィールに思わず心を奪われてしまうものだが、こちらも「さすがはBMW車!」と納得の行くフットワークの仕上がり具合もこのクルマの魅力のポイントだ。ランフラットタイヤを履くことが主因と思われる低速域での上下Gの強さは相変わらず残っているものの、それも今や好意的に解釈をすれば「ダンピングの効いた心地良い硬さ」と表現の出来る程度のもの。速度が増せばフラット感の高さは絶品で、いかにも前後重量配分の適切さをイメージさせるBMW車らしい4輪均等の接地感も、もちろんしっかりと演じられている。
どうやらクーペの世界にもまた新たな基準を構築してしまいそうなこのモデルが日本に上陸をするのは、恐らく10月という線が濃厚。いかにも“エンジン屋”の作品らしい魅力の心臓を搭載した新クーペは、間もなく日本にもやって来る!
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