『ジャガー』と耳にした場合、日本では「イギリスの、高級サルーンのメーカーね」と、まずはそんなイメージを抱く人が少なくないかも知れない。が、このブランドは往年のル・マン24時間レースで活躍をするなど、むしろ由緒正しき“スポーツカー・メーカー”という歴史の持ち主でもあるもの。
実際、「ジャガーのスポーツカー」の歴史は1930年代にまで遡る。以来、70年以上もの歴史の中にあって1996年に発売をされた従来型のXKシリーズは、およそ9万台を販売し年間の販売台数もピーク時には約14000台を数えた「ジャガー史上、最も売れ行きの速いスポーツカー」でもあったと言う。2005年のフランクフルト・モーターショーで披露をされヨーロッパでは2006年の3月、日本でも同年夏には発売の予定という新型は、そんなジャガー発のベストセラー・スポーツカーという座を受け継ぐモデル。もちろん、ラインナップ全体のイメージリーダーとしての役割を担う事もあり、今回も失敗は許されない一台となるわけだ。
そんなこのモデルの国際試乗会は、遥かなる地である南アフリカはケープタウンをベースに開催された。ヨーロッパ発のモデルのテストイベントを何故また南半球で? と誰もが抱きそうなそんな疑問は、しかし実際に現地を訪れればたちまち氷解する事になった。
生粋のスポーツカー――それもオープン・バリエーションをも用意するモデルのイベントとなれば、気候的に厳しい寒さが続き、まだ雪の心配も抜けきらない地での開催は当然論外。となれば、ジャガーの本拠地であるイギリスはもとより多くのヨーロッパ地域では、そこでの初春はまだXKに相応しい季節とは残念ながら言えそうにない。また、300ps級の心臓を搭載し、4.8mに届こうとする全長とおよそ1.9mに達する全幅を備えた高性能でゴージャスなモデルとなれば、タイトな山岳路だけではなくもっと雄大な風景の中をハイスピードで駆け抜ける事が出来る“舞台装置”も欲しい。こうなると、この時期多くのイベントが開催される地中海沿いでさえちょっと“手狭”な感は否めなくなってしまう。
一方、南半球は今が夏から秋にかけての季節の変わり目。しかも、ちょっと市街地を離れて海岸線から内陸部に踏み入れてみれば、旋回半径が数百アールになろうかという高速のコーナーが人知れず散在をするケープタウンの周辺は、まさに「XKにあつらえたかのような舞台」という事にこの地を訪れてすぐに気が付いた。加えれば、かつてはイギリスに支配されたこちらの地は、日本同様クルマは左側通行。すなわち、ここでも“イギリス車本来のテイスト”を味わうのにはうってつけという事になる。日本からは延々と30時間ほども掛かってしまうケープタウンの地ではあるが、なるほどXKのようなクルマにとってみれば、そこはそのテストドライブにはまさにあつらえたような場所なのである。
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